無双

□出会い
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蜀と呉の境の森―…


私は薬草を取りにこの森の中に入っていた。


静かな森で、風が吹くと葉っぱの擦れる音がよく聞こえる。天気もいいし、何もいうことがない。


『平和』の言葉がお似合いな森だなって思った。


しばらく歩くと、少し広い広場に出た。


そこには自分が探していた薬草が生えていたので、ゆっくりとしゃがんで薬草を取り出す。



「何してるの?」



途端、誰かの声がするので辺りを見るが誰も居ない。

……幻聴か?



「上よ、上」



そう言われて顔が自然と上を向くと、すぐ近くの木の上に女性が居た。



「こんにちわ」


「Σわっ!?」



木の上の女性に驚き思わず声をあげる。


その驚きように女性は不機嫌な顔をした。



「なによ。私がそんなに恐ろしかったかしら?」


「い、いえ!そのような事は!」



慌ててるせいか、言葉が絡みながら口から出てしまう。


そんな私を見た女性は、微笑んでから下に降りてきた。


赤い服を身に纏い、綺麗な翡翆の瞳に白い肌。少し幼さが残る先程の笑み―…


いま目の前で、その姿が新鮮に映し出させる。



「貴方はここで何をしてるの?」



木の上でも聞いてきた言葉。もう一度聞くために降りてきたのだろう。



「ここで薬草を取っていたのです」


「ふーん。私も手伝っていい?」


「え?ですが…」


「いいのよ!私がやりたいだけなんだし」



そう言われながら手を引っ張られしゃがむ状態となった。


元気な女性だなって思いながら、どれが薬草かちゃんと教える。



「そういえば、貴方の名は?」



隣で薬草を取りながら聞いてきた。あ、それは草ですよ。



「姜維、字は伯約です。貴女は?」



名を聞くために女性のほうを向く。なぜか知らないけど、この女性を知っておきたかった。




「孫尚香よ。よろしくね、姜維」




明るく温かい笑顔で、翡翆の瞳が私を捕える。


顔が熱くなり、高鳴る鼓動を覚えた時ときであった―…




その人が呉の姫だとは分かるのは、まだ先のこと──


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