無双
□新年
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「何を見てるのですか?」
不意に背から声を掛けられた。
その声の主は、間違えなく先程浮かんだ愛しき人。
尚香は驚きつつも、それを表情に出さずに彼に言葉を返す。
「綺麗な星を見ていたのよ」
「寒くありません?」
「寒いわよ」
寒いといいながらでも、そこを動きそうもない尚香の姿を見て、陸遜は彼女の隣に腰を下ろす。
そして、隣の彼女がしているように、自分も空を見上げた。
「…綺麗ですね…」
予想以上の星空に、思ったことが口から溢れた。
吸い込まれそうな綺麗な星空に、それ以上の言葉は出なかった。
しばらくの間流れた、静かな空気。
その空気は嫌ではなかった。
「もう少しで、終わるわね…」
「はい」
二人は同じ空を見上げて、時間が経つのを待つ。
今日が一年の最後の日。
尚香は一年の最後は何をしようかと考えていたその時、
──目の前には陸遜の顔
──唇から感じる、暖かい温度
顔をゆっくりと離した陸遜は、にっこりと微笑みながら、
「どうしても最後に、尚香様に触れたかったんですよ」
「…バカ」
「フフ。そう言っている間にも、一年が終わっちゃいましたよ」
笑顔を崩さない陸遜は、尚香を抱き締めて耳元で言った。
「また一年、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。陸遜」
微笑み合った二人の背後には、宴を終えた武将達が何人も見ていたのだった。
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