無双
□わすれないよ―上ノ巻―
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「そなた、仕事は終わったのか?」
幸村の質問に、すかさずくのいちは答えた。
「当たり前ですよ。アタシを誰だと思いき?幸村様」
胸に掌を当て、偉そうな態度をとって言った。
その態度を見て幸村は、私は一応主なんだが?と心の中で思うのであった。
「わかりましたか?」
「あぁ」
小悪魔の様な笑みを見せる彼女に対し、幸村は暗い表情を見せた。
その表情でだいだいの事はくのいちは感づいた。
「何かアタシに隠していることあるでしょ?」
「Σ!?いや、そんなことは…な、い;;」
「幸村様は嘘が下手ですね。で、何を隠しているんですか?」
笑顔だった顔が、真剣な顔へと変わる。その瞳には怒りと、言ってくれない悲しさがあった。
言うしかないか……と心の中で幸村は思い、一息吐いて重そうな口を開いた。
「そなたを次の戦に連れて行かないと思ってな」
「何でですか?アタシは幸村様の忍ですよ?」
「そなたを連れて行く訳にはいかぬ…」
「何でですか!!!」
くのいちの怒声がその場に響く。
滅多に怒らないくのいちの声に、幸村は少々驚いたが、元の真剣な表情に戻った。
「そなたも知っての通り、今、徳川軍と豊臣軍は睨み合っている。我らは豊臣秀頼様と共に家康を討とうと思うが、戦力は相手が上だ。負け戦に成るかもしれん……そんな危険な戦にそなたを連れて行くわけ」
「幸村様、馬鹿じゃないの?」
緊迫した雰囲気とは似合わないおどけた声。
声と言葉に、幸村は怒った表情でくのいちに言い放った。
「何!?私は真面目な話をしているのに、そなたは…?!」
くのいちは自分の人指し指を幸村の唇にそっと当てる。
静かに、と言う意味がその動作で分かるものだ。
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