無双
□貴女の居る場所なら
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まだ太陽が登っていない、薄暗い朝─…
足音を消し、音を発てないようにゆっくりと歩いている少女の姿が見えた。
少女の名は孫尚香。
この国の姫であり、一番のお転婆と言っていいだろう。
彼女は侍女の目を盗んではどこかに行ってしまい、ある時は城を抜け出し、町で遊んでいたりしているのだ。
今日も尚香は城を抜け出すため、周りを見ながらゆっくりと門に進む。
彼女がこれだけ警戒しているのには理由があった。
「(もうちょっと…)」
視界に門が見えて、次第に足が早まる。
いつもなら昼間に抜け出すのに、最近交代した護衛兼お目付け役の少年が原因である。
「(やった…!)」
見付からずに門まで来て嬉しがってるのを打ち砕くように、頭上から今聞きたくない声が降ってきた。
「またお一人で出掛けるのですか?尚香様」
声を聞いた途端、尚香の顔から元気がなくなる。
勇気を振り絞って門の上を見ると、そこには尚香の護衛兼お目付け役の陸遜が居た。
「な、ん…で…?」
「尚香様の様子がおかしいので、昨夜から待ち伏せしてました」
薄暗いけど、彼が笑顔で言っているのが分かる。
呂蒙から交代してからというもの、脱走しても行く先に絶対彼が居る。
だから陸遜になってからは脱走が成功していないのだ。
「さて尚香様。部屋に戻りましょうか」
そう言って、ゆっくりと陸遜は動きだす。
捕まったら部屋送り。見張りは陸遜。
今日こそ成功すると思った計画が、崩されていくのがわかった。
だけど、ここで諦める尚香ではない。
体を後ろに向かせ、すぐに逆の門に走り出した。
「尚香様!?」
離れる背中を目にすると、陸遜は階段の途中から飛び降りて、尚香の行く方向を見る。
「今度はあそこかな…」
尚香とは別の方向に陸遜は歩き出した。
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