Junk

□エピソードU
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どうにもならない今日だけど
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『あなたの長所は何ですか』
 たった二行が、書けなかった。


 泣きたい気持ちで学校に行って、鉛筆書きのままの書類を出した。思い浮かぶ全てが、長所とはかけはなれていて。いいところなんて何一つないような気がした。

 なんとか笑いながら友達に会う。話題が書類に及んだときも、鉛筆書きを笑い飛ばして。飛ばしきれずに見抜かれた。なんで、泣きそうなの?


 おどけた調子で弱がってみる。おどけきれずに泣きそうで、きっとウザがられてるだろう、と思った。

「でも、あたしは瀬里が居てくれて助かってるよ」

 一瞬、反応に迷う。迷いながら、思ったとおりに礼を言った。

「ねぇ、今夜さ。ルームメイトの誕生日パーティするんだけど、こない?」


 頷いたのは何故だったのか、よく分からない。みんな友達とか連れてくるし、とか、面白いし、とか。言われる前にはもう、決めていたのかも知れない。

 三分後には、バスに揺られて。一時間後には手土産の酒を買って。二時間後には談笑していた。

 普段は決して飲まないビールを開けて、ハッピーバースディーを言う。めちゃめちゃな英語で会話をした。この缶に描かれた麒麟の中には、カタカナの三文字が隠れている、とか。そんなことばかり話して笑って。

 お寿司をつまんで、それぞれが何かをした。例えば、バイオリン、能の謡、ベリーダンス、ヒップホップ。祝われる側の女の子も、笑いながら踊って。素敵過ぎてため息が出た。

「瀬里、何か踊って〜」
「え?」

 唐突に話をふられて、酒の勢いで頷いた。練習もしていない盆踊りを、唄いながら踊る。
 あからさまに誕生日向きではないそれに、けれど大きな拍手をもらった。とても、嬉しかった。


 大きなケーキを切り分けて、箸で食べて。十六分の一のちぐはぐさに笑った。


 そうして、終電に乗り込んだ時にはもう、日付が変わっていた。


 どうにもならない今日だけど。私は笑っていて。
 長所はまだ見付からないけど。面白い人ね、と言われた。



 電車の中、なぜだか満ちたりた気分で、笑った。













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