※半獣パロ









夜勤明けで、帰って来たのはほんの二時間前の事。自分用のベッドでスヤスヤと可愛らしい寝息を立てて眠っている銀色にゃんこの頭を起こさないように優しく撫でて、風呂も飯もとりあえず一回寝てからにしよう…そう考えて部屋着に着替え、自分のベッドに潜って、夢の世界へと意識を飛ばした。



それが一時間と四十分前の事。




「はてんこ、おなかすいた。ごはんー」




そして現在。
浅い眠りから本格的な眠りに足を踏み入れかけていたちょうどその時。俺の広いデコ(べっ別にコンプレックスじゃねぇからな!)をペチペチと繰り返し叩く小さな衝撃によって、俺の眠りは完全に妨げられた。



あぁ、呼んでる。起きてやらないと。



未だ現実に逆らって眠りに入ろうとする意識を叱咤して、無理矢理に瞼を上げて、俺の瞳は明るい朝日を映すことになった。ぼんやりと焦点が合わない目線の先には、銀色の輪郭。




十二、三歳くらいの小柄な矮躯。朝日に照らされて光る綺麗な銀髪。其処から覗くパールホワイトの三角に柔らかく尖った獣耳。幼さの残る大きな真紅の瞳とカチリと目が合った。



半獣のコイツ――ヘッポコ丸を拾ってから早一ヶ月。長年続けてきた仕事を変えてしまうべきか、最近本気で思案中である。



「はてんこー?」
「んー…あぁ悪い。飯、用意してなかったな」




疲労と眠気で、そんなことすっかり頭から抜け落ちていた。未だボケている頭を軽く振りながら起き上がる。


ヘッポコ丸は一人で飯の用意が出来ない――というか、危ないので火の周りには近付けさせないようにしているから、必然的に俺に飯を集ることになる。本人がそれを申し訳ないと思っていることは、重々承知している。




拾われてから一ヶ月。ヘッポコ丸は俺に迷惑だと思われたくないのだろう、半端なく気を使う。こうして寝ている俺を起こすのは、飯の用意を忘れてしまっている時ぐらいだ。それ以外は温和しいもので…寝ている俺を起こさないように静かに本を読んで、俺が自然に起きるのを待っている。拾われた身だから遠慮しがちなのだろうけど…正直、そこまで気を使わなくて良いんだぞと言ってやりたい。いや言ったけど。それは全く効果無しだったけども。







「ごめんね。ほんとは起こしたくなかったんだけど…」




ほら、またそうやって申し訳なさそうに悄げて耳を垂らすだろ? 腹が減るのは生き物の性だ。しょうがないんだよ。





「良いんだよ。今晩は休みだし…ちょっとぐらい起きてたって支障はねぇよ」




ちょっと寝たしな。そう言って頭を撫でてやれば、安心したようにヘニャッと笑う。垂れていた耳が立ち上がり、臀部から伸びる耳と同色の尻尾がゆらゆらと揺れた。




「じゃあ、きょーは夜いっしょ?」
「ん、一緒一緒」




言いながらぼやける瞳を擦りつつキッチンに向かった。冷蔵庫を開けて中身を確認。予想はしていたが、大した食材は入っていなかった。まぁ魚と卵があるし、これでなんとかなるだろうか…。




「はてんこっ」




冷蔵庫に頭を突っ込んだままうんうん唸ってると背中に軽い衝撃。前のめりになりそうだったのをなんとか堪え、振り向けば、映ったのは可愛らしい獣耳。




「じゃあ、じゃあ、きょーはいっしょ寝ようね!」




背中にへばりついてそう言うヘッポコ丸は、凄く嬉しそうに笑っていた。夜一人じゃないってのが本当に嬉しいみたいだ。そう言えばここのところ夜勤が多くて、一緒に寝てやれることは少なかったかもしれない。


一度は捨てられていたヘッポコ丸だ、他人の温もりが恋しいに決まっている。




「そうだな。一緒に寝ようか」




そう言ってやれば満面の笑みを浮かべて、ヘッポコ丸はギューッと俺の首に手を回してきた。行動が可愛くて思わず顔が綻ぶが、このままじゃ材料を出せない。ので、一旦離れさせて、必要な材料を適当に並べてから、改めてヘッポコ丸を抱き上げてやる。



見た目の割にまだまだ細っこいので、ヘッポコ丸は軽い。ちょっとは太らせるべきかな…そう考えて喉元を擽ってやるとゴロゴロと喉が鳴った。こういう所は、やっぱり猫だ。




「今から飯作るからちょっと待ってろよ」
「うん!」
「で、飯食い終わったら、ボーボボ達でも誘って公園でも行くか」
「いく!」




やったー! と幼子のようにはしゃぐヘッポコ丸は本当に可愛い。これが親バカと言うのだろうか…これが親の欲目と言うのだろうか…。


ヘッポコ丸の一挙一動に、俺は破顔一笑の連続である。




「すぐ作るから、温和しくしてろよ」





そう言って頬にキスしてやれば、擽ったそうに身を捩る。そして「わかった!」と言って俺の腕をすり抜けてトコトコと居間に行ってしまった。離れた温もりが妙に寂しい。




早く作って、一緒に食べて、公園に行こう。ほったらかしにしていた分、今日は甘やかしてやろう。






そう胸に決めて、俺はキッチンに立ち、油を引いたフライパンに卵を二つ割り入れた。










PRETTY PET!!
(これが親愛じゃないなんて)
(気付くのはもう少し先のこと)







平成二十二年二月二十二日!! ビバ☆スペシャル猫の日\(^^)/






栞葉 朱那

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