※ボーボボ一行が大きな一軒家で一緒に住んでる設定。







「ソフトン、飯だぞー」




爽やかな朝。トグロ型のネームプレートが掛かった扉をノックもせずに開けたのはエプロン姿の破天荒だった。どうやら今日の朝食当番は彼のようだ。



突然の不躾な訪問者に、部屋の主であるソフトンは不機嫌そうに歪む顔を隠そうともしない。とっくに起床していたらしく、すでに寝間着からいつもの私服に着替えていた。




「…破天荒、ノックぐらいしろと何度言えば分かるんだ」
「別に良いじゃねぇか。…お?」




ソフトンの抗議も意に介さない破天荒は、ベッドに違う人影を見つけた。まだよく寝入っているようで、起き上がる気配が無い。





「ヘッポコ丸じゃん」
「あぁ。よく寝てるんで、起こすのが憚られてな」




そう、人影はヘッポコ丸だった。体躯をすっぽりと布団にくるみ、スヤスヤと穏やかな寝息を立てて眠っている。その安心しきった寝顔は、とても幸せそうだ。


勿論、ヘッポコ丸とソフトンは同室ではない。ヘッポコ丸の部屋はちゃんと別で用意されている(というか、ちゃんと一人一部屋設けられている)。なので、ヘッポコ丸は昨夜、ソフトンの部屋に自ら泊まりにやってきたということになる。




「へぇー?」
「……なんだ」
「いや? ただ、昨日激しかったのかなーと思っていでーっ!!!」




ニヤニヤしながらストレートに下世話な予想を口にすると、ソフトンから鋭い蹴りをいただく羽目になった。ソフトンがこういった不粋な話題を好まないことを知っているくせに、全く余計なことを言ったものである。








そう、ソフトンとヘッポコ丸は恋人同士である。旅をしていた頃から付き合い始めたから、もう一年以上になるだろう。戦いが終わり、こうしてみんなで暮らし始めても、二人の愛情は変わることなく今日まで順調に育まれている。




だから、そんな二人が一夜を同じ部屋で過ごしたのなら当然…と、下世話な妄想が働くのは仕方無いことだと思われる。しかし、思ったなら思ったで、何も言わなければいいのに、破天荒は何かしら制裁が与えられるのを分かっててわざと突っ込んでくる。単に、律儀に反応を返してくるソフトンが面白いからなのかもしれないが。





案の定、破天荒はソフトンに蹴りを入れられ絶叫を上げたわけだが、ヘッポコ丸はその声にも気付かず相変わらず眠ったままだ。よほど眠りが深いらしい。





「蹴るなよ! いってぇだろ!」
「五月蝿い。早く出ていけ。ヘッポコ丸を起こしたらすぐに行く」
「んな無碍にすんなって。ついでだから起こしてくぜ」
「あ、こら、破天荒」





ソフトンの制止の言葉も聞かず、破天荒はズカズカと部屋に入り込み、一直線にヘッポコ丸が眠るベッドへ向かっていく。無防備に寝入っているヘッポコ丸は、破天荒がすぐ側までやってきているというのに全く気付かない。彼がここまで気配に鈍感なのも珍しい。よっぽど疲れているのか…はたまた、ソフトンの部屋だからこそ、安心しきっているのか…。


そして破天荒は、その安寧をこれからぶち壊そうと目論んでいるのであって。




「ほーらヘッポコ丸ー朝だぞー!」
「おいっ破天荒っ」



ソフトンが止めようと手を伸ばしたが一瞬遅く、破天荒は無情にも、ヘッポコ丸が被っている布団を勢いよく捲った。





ヘッポコ丸は全裸で眠っていた。







「………」
「………」





ソフトンは何も言わなかった。破天荒は無言で布団を被せ直した。一瞬の肌寒さにヘッポコ丸は身を少し縮こませたが、すぐ何事も無かったかのように寝返りを打った。




「すー…」
「………」
「………」
「………俺は止めようとしたからな」
「もっとちゃんと止めろよ!!」




ソフトンの冷静な言葉に、破天荒は半泣きになりながらツッコんだ。ソフトンの制止の言葉を聞かず、無遠慮に布団を捲ったのはまさしく破天荒なのだが、ソフトンだけが悪者扱いにされている。破天荒は完全に自分の行いを棚上げしていた。





「なんでコイツ真っ裸で寝てんだ!?」
「あぁ、昨日はシてからそのまま寝てしまってな。大丈夫、ゴムはしっかりつけていたから中は綺麗だ」
「別にそこまで聞いてねぇんだよ!」





爽やかな朝に似つかわしくない内容の会話である。というか、発信源がソフトンな時点で違和感MAXである。しかも表情を変えずにサラリと言うもんだから余計にだ。旅をしていた頃の冷静沈着でミステリアスな雰囲気を醸し出していたソフトンは、今や見る影も無くなっていた。




こうなってしまう程ヘッポコ丸に絆されたということなのか、それとも勝手にソフトンの角が取れていっただけなのか。破天荒にはその辺りの判別はつけられなかった。




「後始末の必要は無かったが、汗だくのまま寝てしまっていたからな。身体だけは起きてから拭いてやった。ヘッポコ丸は全然起きなかったが」
「いや、だから聞いてねぇって…」




尚も話し続けるソフトンに脱力してしまった破天荒は、ようやく今朝、この部屋に訪れた時にちゃんとノックをすれば良かったと後悔した。というか、ソフトンの部屋に訪れた時点ですでに間違いだったと言うべきか。






一番最初はからかいの意を含んで色々と詮索していたが、こうも生々しく事後を語られるとからかう気力すら削がれてしまう。ソフトンがそれを狙ってこんな直球な感想を述べているのかどうかは知らないが、とにかく、破天荒の色々な活力を削るにはなかなかの効力を発揮していると言えた。



というか、さっきまであんなに破天荒のことを無碍にしていたくせに、この開き直りようはなんだろうか。





「なんだ? お前はこういう話が聞きたかったんじゃなかったのか?」
「別に率先して聞きたかったわけじゃねぇよ。興味があったのは認めっけど、そこまで明け透けに話されても対応に困る」
「そうか、それは残念だ。これから抱いてる間のヘッポコ丸が如何に妖艶で淫らなのか事細かに話してやろうと思っていたのに」
「あんたいつからそんな歪んだ性格になったんだ」





破天荒のツッコミは尤もだった。





「全く…それがあんたの本性か?」
「さぁ、な?」




ソフトンは不敵に微笑み、肩を竦めるような動作を見せた。誤魔化された、と破天荒は思ったが、もう必要以上に突っ込むのは止めることにした。これ以上、ソフトンの知らなかった部分を知りたいとは思えなかったからだ。




破天荒が何も言ってこないことを悟ったのか、ソフトンは小さく笑い声を零した。そして、彼はゆっくりとした動作でベッドに近付く。手を伸ばし、布団を少し捲る。未だ寝こけているヘッポコ丸の剥き出しの肩に手を置き、そのままユサユサと揺さぶり始めた。





「ヘッポコ丸、そろそろ起きろ。朝食の準備が出来たらしい」
「んー…」
「ほら、良い子だから」




ヘッポコ丸に起床を促すその声がやたらと甘さを含んでいるように聞こえるのは、きっと気のせいではないだろう。普段、他の仲間達には絶対発さないであろうその響きに、破天荒は少々げんなりする。






当て付けにされてる気がする――破天荒は密かに、そう考えていた。






「ん……ソフトン、さん…?」
「起きたか。おはよう、ヘッポコ丸」
「おはよう、ございます…」





断続的に続く揺さぶりに、やがてヘッポコ丸は目を開けた。だが、まだ眠気が完全に覚めたわけではないらしく、開かれた真紅はまだトロンとしている。一度うつ伏せになったかと思ったら、ノロノロとした動作でそのまま起き上がった。しかし肩から布団を纏ったままで、動こうとしない。




「すまない、昨夜は無理をさせたな」
「いえ、大丈夫です…」




コシコシと目を擦りながらそう答えるが、声がまだ眠そうだ。ふあぁ…と欠伸を零す様はやけに無防備だ。その様子が、破天荒からしたらとても新鮮だった。いつも破天荒に突っかかっている生意気な態度は見る影も無い。…この二人、揃うと見る影が無くなるタイプなのだろうか。


言い得て妙。




「ソフトンさん…眠いですぅ…」
「そうか。それは悪いことをしたな。だが、朝食の時間だ」
「ふぁい…」




眠気は取れていないようだが、朝食を摂る意志はあるようだ。ヘッポコ丸はとりあえず身形を整えようとしてか、のんびりとした動作で布団を肩から落とした。と、そこでようやく破天荒が「ちょっと待て」と声を上げた。




「着替えるなら俺が出てってからにしてくれ」
「は………!?」




その言葉に、夢現だったヘッポコ丸の意識が完全に浮上した。どうやらたった今、破天荒の存在に気付いたらしい。ソフトンのすぐ後ろに居たにも関わらず、だ。寝ぼけていたにも程がある。



目を見張り、ヘッポコ丸は破天荒を凝視する。破天荒は一切動じずに「グッモーニン、クソガキ」と言ってのけた。それに憎まれ口を叩くのも忘れ、金魚のように口をパクパクさせて頬を赤くしていく。さっきまで無防備な姿を晒していたことに羞恥心が湧き上がってきたらしい。




「な、な、な、…」
「なんだよ」
「なん、なんでお前がここにいるんだよ!」
「見て分かんねぇのか? 俺、今日朝飯係。で、出来たから一番近いソフトンから呼びに来たんだよ。そしたらお前がソフトンのベッドで真っ裸で寝てただけだ」
「まっ…!?」





ヘッポコ丸はどうやら自分が全裸でいることに全然気付いていなかったらしく、破天荒の直球な言いように目を白黒させた。先程自分で布団を落としたことによって、その体躯を破天荒の面前に晒す結果になっていることも…同時に気付いてしまったようだ。


素早く布団で身を隠し、ヘッポコ丸は顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。どうやら、湧き上がってきた羞恥心が相当大きいようだ。




「破天荒、あまりヘッポコ丸をいじめるな」




止める気があるのか無いのか、ソフトンの声はあまりに軽い。その声に破天荒は「へいへい」とあしらうように答え、ヘッポコ丸は少し恨みがましい目でソフトンを見た。




「俺、先に行ってるからな。ソフトン、さっさとその破廉恥なガキんちょに服着させろよ」
「あぁ、分かった。すぐに行く」
「ソフトンさん! 否定してくださいよ!」
「だがヘッポコ丸、お前は今全裸だろう?」
「そういう意味じゃなくて!!」
「早く来いよ〜」





二人の漫才じみたやり取りを背に、破天荒はヒラヒラと手を振って部屋を出た。出た瞬間、重い溜め息が漏れた。あの二人の空気に当てられて、まだ朝だというのに妙な疲労感が身を包んでいるように思えてならなかった。








二人が恋仲であるのは知っていた筈なのに、あぁやって他人の目を気にせず恋人らしい雰囲気を醸し出すところを、そういえば破天荒は見たことが無かった。だからだろうか…普段全く目にしない二人の甘い空気に呑まれ、酔ってしまいそうになったのは。



いちゃつくのが悪いと言っているわけではない。だが、好き好んでそんな光景を見たいわけじゃないから、あぁいう雰囲気に巻き込むのは勘弁してほしい。しかもソフトンの場合、意図的にそんな雰囲気に持って行ったような気がする。





「まぁ…幸せならそれでいんだけどな」





破天荒は苦笑しつつ、付けたままだったエプロンを外した。早く他の奴らも起こさないと、せっかく作った朝食が冷めてしまう。少し早足に廊下を歩き、二つ隣のボーボボの部屋の扉を、今度はしっかりとノックした












ツチノコ
(で、ソフトンって激しいのか?)
(死ね変態!!)






みんなで同棲とか素晴らしいよねと思って。そんでそんなスリリングな状況で愛の営みをする二人が良いなぁって(おい)。

最初は破天荒で考えてたんですが、それじゃ話がすぐ終わりそうだったので止めました。それに個人的にもソフ屁は好きだし、それにしてはソフ屁小説の数が少ないなーとも思ったのでソフトンさんに白羽の矢が立ちました。



ちなみにタイトルに深い意味はありません←







栞葉 朱那

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