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□形の無い贈り物
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少年は暖かい部屋から外を眺めていた。
真っ黒な画用紙の上に、真っ白な絵の具を乗せたような景色だ。
気温は低く、外で息を吐くとそれは霧の様に散って行くと知っていた。
彼は外を眺めていた。
真夜中の事。
彼は不思議な夢を見た。
『形の無い贈り物』
シンシンと静かに雪降る寒い夜。
今年はホワイトクリスマスなのだなと、クロエは悠長に思う。
「あ〜今年は寒そうだね」
鏡に写し出される雪景色を眺め、溜め息混じりに言葉をはき出す。
「人間界は寒そうだねと言っているのだよスイ君」
赤いコートを着た、見た目16・7のその少女は、隣りで毛繕いをしている鹿の様な動物に話しかけた。
『あぁそうだねクロエ。君は寒がりだからね。去年の様な失敗はするなよ』
クツクツと喉を鳴らすスイと呼ばれたその動物は、流暢な人語を話しクロエを見て目を細めた。
クリスマスの夜。
彼女には仕事がある。
「わかってるよそんな事。去年は初めてのお仕事だったから日本があんな寒い国だって知らなかっただけ。今年は2回目、そんなへまはしないよ」
べー、と舌を出し睨みあげる姿は何処にでもいる普通の少女に見える。
「去年のサンタ服は2度と着ない」そう独り言を言うとクロゼットからやや短めの赤いスカートをとりだした。
『おいクロエ、言ってる事とやってる事が違うぞ?そんな服を着たら去年同様、風邪をひく』
「へっへ〜んだ。スイ君、何もわかってないね?去年のに比べて生地が厚いし、スカート丈が長いんです」
『……丈は対して変わってない気がするが…まぁ良い。もう時間が無い。早く着替えておくれ』
ゴーン
ゴーン
そんな時、丁度柱時計が鳴った。
重厚な深みを帯びた音で、徐に空間に時間という流れを告げる。
『時間だ。急がないと間に合わない』
「あ〜んもうっ!うっさいなスイはっ!わかってるよ」
クロエはツインテールにした長めの金色の髪を靡かせて、部屋の隅に置いてある白い袋を重たそうに担いだ。
「よっし!行こ!スイ君」
彼女はサンタクロース。
年に1度、子供に夢を与える。
*
トナカイと赤い服を着た少女が空を飛んで居た。
黒と白しかない景色に、唐突に鮮明な赤が加わったのだ。
少年は鼓動が早くなるのを感じた。
あれはまさか−−
乾いてしまった喉に無理やり唾を流し込む。
ゴクリと音を立てた喉は、再びすぐに乾いてしまった。
「…サンタクロース……」
そんなもの。
そんなものいないと思っていた。
まず空なんかソリで飛べるわけがない。故にその時点で少年はサンタの存在を信じてはいなかった。
が、しかし今のあれは何なんだ。
紛れもない「サンタクロース」
「本当にいたんだ…」
12年間生きてた中で1番の興奮だった。
息をするのさえ忘れそうな。
瞬きをするのさえ忘れそうな。
少年は動けずにいた。