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□My Brother
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幼い頃。



そう、まだオレ達が「平等」だった頃。


いや。


「平等だと感じていた」頃。
母さんがおやつにクッキーをくれた。



「2人で仲良く分けなさい」



数もろくに数えられない歳だ、同じ数だけ分けると言ったら1枚ずつとっていくしか方法はない。



「お兄ちゃん、何やってるの?」



弟の毅は言った。オレの行動を見て不思議そうに首をかしげる。



「12枚あるんだから6枚ずつとれば良いんだよ」



奴は賢い。
そんな弟に後ろめたさを感じ始めたのはその頃からだった。


毅はなんでも出来て自分よりも優れた人間だと言う事を……確信し始めたガキの頃。





          *




毅は今日も塾だろうか。


仕事から帰って来てから彼を見ていない。



「ご飯、食べてしまいなさい」



母さんがキッチンから顔を覗かせて、リビングのソファにだらしなく座って書類整理しているオレに声を掛けた。

半分伊達の眼鏡を外し重たい腰を上げる。今日もよく働いたな、なんて自分で自分を労り腰をさするオレの様子を見て、母さんはおかしそうにプッと吹き出した。



「大樹、貴方本当に父さんに似て来たわね」



そうかな?自分ではそうは思わないけど…。



「母さんが言うんだもの、本当にそっくりよ」



でも賢いところは毅の方が似てるよな。



母さんは笑い顔を引っ込めて無表情になった。



「何言ってるの、大樹も賢いじゃないの」



いや、母さん。オレは賢くなんてないんだよ。ごく普通の生活を送ってる、ごく普通の会社員だ。



最後の言葉は心の中にしまっておいた。母さんはそんなオレを怪訝な顔で見つめ「変な大樹」と呟いてからキッチンへと顔を戻した。


毅は何でもオレに勝っている。その秀でた才能はおそらく家族から賢いと称されている父親よりも上を行くものだろう。





いっその事オレが毅の弟が良かった。




そうすれば自慢の兄貴だったのに。




どうしてオレはあいつの兄貴なんだろう。




毅もきっと。
オレが兄貴でうんざりしているだろうな。
毅はオレと兄弟で嫌だと思っているに違いない。



ご馳走さま。



適当に夕飯を食べて自室へと戻る。
中学辺りから家にいる事が苦痛になって来た自分にとって、唯一神経を遣わなくてすむ場所。
ばふりとベッドにダイブしてスーツのまま横になる。疲れた身体がそこから動きたくないと言わんばかりに体重を重くした。



そうだ、眼鏡おきっ放しだ…。



しかしそう思った時にはオレは既に夢の中へと引き込まれていた。





         *





朝。



ドンヨリとした空が今日は1日中雨だと知らせる。
時計を見れば7時過ぎ。



やばい、遅刻する。



スーツのまま寝てしまっていた事に気付きチッと舌打ちすると、ヨレヨレになって見栄えの悪くなったそれを早急にはぎ取った。
クロゼットから違うスーツを取り出してまるで忙しいスーパーモデルのごとく素早いスピードで着替える。
とにかく時間がない。
シャワーくらい浴びたかったが髪を整えるだけで精一杯だった。
リビングにおきっ放しにした伊達眼鏡をかけると少しだけ賢く見える。

最初は毅との圧倒的な差を補う為にかけ始めたものだったが、いつしかこれがオレのトレードマークになっていた。





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